おがたかお の 塊

物語をはじめよう

シノビいいね!

闇夜、自爆スイッチを手に走る。

 

拙者なりに、大切な人を守りたかったのでござる。あまり賢くない頭で考えた最後の手段。

この地獄絵図を作ったのはやっぱり拙者だったのだ。ごめんねの気持ちでいっぱい。本当はみんなと一緒に人生を楽しみたかった。

誰もが幸せな世界を。ここが天国ならいいね!

 

 

 

最初にこういう世界を望んだのは私だったんだ。それをシノビちゃんが察知して表現してくれる。だからシノビちゃんの大冒険に最後まで付き合う。私たちが存在した事実は根源に記憶されて、しっかりと永遠に残るのだった。好きだよ。シノビちゃん。感謝してる。

例え悲しい現実があろうとも、私たちは生きていくんだよ。

 

 

 

拙者はスイッチを押す。遠くまで走って来た。怖いでござる。今はまるで現実みたいな景色が。これがただの夢だったとして、だけどここで過ごした時間は確かにあって。ナノちゃんや怪獣達が幸せに暮らせますように。願わずにはいられない。

 

 

意識的に夢から覚めたいような時、死ぬしか方法を思いつかなかった馬鹿。しかし爆弾で木っ端微塵になった後も夢の中ならどうしよう。悪夢が怖いよ。自分が重たい。世界は多く僕のせいで歪んでいるのだった。

真実の重量に押しつぶされて僕はやっていけない。無責任だから、放り出しているから生きていられる気がして。だけど逃げている感覚も拭えなくて。暗い考えばかり浮かぶのはこの夢のせいだって思う。

シノビは食べるのが大好き。何の変哲もないただのシノビで、当然幸福に暮らす権利だって持ち合わせている。可愛い子なのだった。

 

スイッチを持つ手が震えるでござる。遠くでまた悲鳴が聞こえる。望んでいない殺戮。拙者の影達が戦場を生む。罪のない子どもたちが死んでいく。耐えてきたこの悪夢とはもうさようなら。早く速くスイッチを押すでござるよ。例え、自分が死んで二度と戻らないとしても引きかえに助かる世界があるのなら。

スイッチを持つ手が震えるでござる。生きていたい。拙者はこの期に及んで、地獄でもまだ生に執着している。これは夢なのに。どうして?夢?

黒い服を着た母さんがテレビを観ながら煎餅を食べている。ドロリとした感覚が頭の中でとぐろを巻く。なんだ、夢か。あのシノビの夢。ずいぶんな悪夢だった。スイッチを押す前に目覚めてよかったのかもしれない。うっすらそんなことを考えていたのに、気がついたらまた視界が真っ黒になっていたんだ。

拙者はキメラたちが殺されていくのを知っている。呼吸が苦しい。身体の感覚がやけにはっきりしている。拙者は終わりの近い物語に立っている。

 

「嘘ばかりついてて馬鹿みたいだ。シノビよ、誰が死んだところで構うもんか。笑ってやれよ。幸せだって。罪の意識なんて僕が蹴散らしてやる。スイッチをよこせ。」

「拙者はどうしても、これを押さなくてはやりきれない。自分の生み出している悲劇が許せないのでござる。自分の意志でこの世界を終わらせたい。笑うのはそれからでござる。みんなのことが好きだし、自分の人生より大切なものがある。」

ハッピーエンドじゃなくちゃ嫌だ。なぜこんな夢を見ているんだろう?

「拙者はシノビの者。ナノちゃんのために生まれたキャラクター。つまらなかった世界を笑いに変える。そういう力があるでござるよ。でも拙者は現実では眠っている普通の男なんだった。だけど確かに存在している。夢の中で、拙者は完全にシノビなのであった。」

天真爛漫な可愛いナノちゃん。ネットをさまよっていた時に出会った。「つまんない、面白いことないかなぁ」そんな掲示板の書き込みを見つけて咄嗟に反応した。

「拙者はシノビ♪ナノちゃんを楽しませるために生まれたでござるよ!」

 

スイッチを押す。血がたくさん流れた。こんなの、ナノちゃんはもう喜ばない。やりすぎだ。空は真っ赤で大地は黒い川がドクドクと脈打ちながら流れていく。悲鳴があがる。可哀想なキメラ達がどんどん内側から破裂していく。やめて。もうみたくないでござる!!!

 

ピコロン♪いつもの着信音で目が覚める。

涙がとまらなくて罪悪感でいっぱいで重たかった。居間で寝ていた僕には毛布がかけられていてカーテンから少し光が洩れている。

スマホを覗くとナノちゃんからのメッセージだった。

「シノビちゃん、お誕生日おめでとう。本当にいつもありがとう。シノビちゃんのおかげで毎日楽しいんだよ!今日はどんな風に過ごすのかな?きっと素敵な1日になりますように。おはようございます♪」

 

「おはよう!今日はナノちゃんの夢を見たでござるよ。

 とっても幸せな気持ちだったでござる♪

可愛い動物達が仲良く暮らしているピンクのお空なんだった!

誕生日覚えてくれててありがとう~。今日はフワフワ風船にのって仲間達と遠くまで冒険に出発するでござるよ!朝ごはんにケーキを食べましたん♪ハッピー!」

 

「私の夢を見たの~?めっちゃ嬉しい!ピンクの空可愛いー!冒険私も連れてってほしいなぁシノビちゃん大好き!」

 

ナノちゃんは今日も元気で。

昨日、父さんの葬式が済んだ。僕はいい息子じゃなかったし、母さんには甘えてばかりなんだ。

遠くへ行きたい。スイッチを押したい。もう終わりにしたい。嘘はやめたい。本当の僕を知って欲しい。だけど怖い。僕はただのダメな男であって、夢のシノビじゃないんだから。 

 

「もしこれから、拙者からのお手紙が届かなくなってもがっかりしないでほしいでござる。シノビは新しい冒険に出ますので。どうかナノちゃんはこれからも幸せに暮らしてね♪」 

 

「シノビちゃん。何かあったのでしょうね。私には言ってくれないよね。なんだかさみしい。いつも私を喜ばせるようなことばかり。本当のこと、教えてほしい。私はシノビちゃんをもっと知りたいって思っているよ。」

 

「拙者はナノちゃんを楽しませるために生まれたでござるよ!それ以上は何もないのに。どうしていいのかわからない。」  

 

「シノビちゃんを助けたいよ。」

 

「ハッピーエンドがいいのでござる。今ならまだ、間に合うかもしれないから。結末は自分で決める。スイッチは拙者が押す。」

 

「だめ!今シノビちゃんが死んで良い結末なわけないよ。シノビちゃんがいなくなったら嫌だ!!!」

 

「結局、ナノちゃんを悲しませることになるなら生まれなければよかった。いつかはさようならなら、出会わなければよかった。本当にごめんなさい。素直なナノちゃんが大好きでした。」

 

「今から行く!」

 

その30分後に、ナノちゃんはうちにやってきて僕に抱きついてわんわん泣いていた。

というのが馴れ初め。これからナノちゃんとシノビの結婚式。いえーい。